抗生剤は悪い細菌を倒してくれます。しかし、ターゲットの病原菌以外に、腸内細菌も倒してしまいます。ある種の抗生剤を幼少期に多用すると、将来の喘息や肥満に影響する可能性が示されました。
抗生剤は、細菌の細胞壁に作用して菌を破壊するタイプ(ペニシリン系、セフェム系など)、タンパク質合成を阻害するタイプ(マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系)、DNA複製を阻害するタイプ(ニューキノロン系)等があります。医療現場では、症状や検査から原因菌を特定、推定し、菌にあった抗生剤を処方します。
小児では気管・呼吸系の感染症が多く、ペニシリン系やマクロライド系(商品名:クラリス、ジスロマックなど)がよく処方されます。マイコプラズマや百日咳、慢性副鼻腔炎などにマクロライド系が効くことも多く、日本でもポピュラーな薬です。また内服回数が少ないとの理由で、欧米中心に好む人もいるようです。
近年腸内細菌の研究が進み、抗生剤が腸内細菌に影響を及ぼすことがわかってきました。一度減った菌の種類や数の回復、免疫や他の疾患への影響など、研究が盛んです。
喘息は小児科領域で患者数が多く、免疫や環境の影響が言われています。また肥満についても幼少期の要因が密接に関連しているとの報告が多数あります。近年これらの疾患に腸内細菌が影響していることが示唆され、研究が進んできています。そこで今回は、腸内細菌を乱しやすい抗生剤、またそれらと喘息、肥満について幼少期の子供を対象にした研究についてご紹介します。
幼児における腸内細菌への抗生剤の影響
Intestinal microbiome is related to lifetime antibiotic use in Finnish pre-school children.
Nat Commun. 2016;7:10410.
<対象>
同一保育所通園中の2歳〜7歳まで236名のフィンランド人幼児。
※ほぼ全員母乳育児、食事・生活水準で大きな差はなし
<方法>
・142名より便を採取(27名は1回、115名は7ヶ月間隔を開けて2回)
・身長体重、アレルギー歴、抗生剤と慢性疾患記録をフィンランド厚労省より取り寄せ
※フィンランドは薬剤副作用保証制度のため、処方歴を国が管理
※抗生剤は医師の処方箋のみ入手可能
・糞便はIllumina HiSeq2000でシークエンス解析
<群分け>
(フィンランドでは、主にペニシリン系かマクロライド系が幼児に用いられる)
・ペニシリンを6ヶ月以内に内服→P6、7-12ヶ月以内→P12、13-24ヶ月以内→P24
・マクロライドを6ヶ月以内に内服→M6、7-12ヶ月以内→M12、13-24ヶ月以内→M24
・ここ2年以内に内服しないが、それ以前に頻回使用→E (early life group)
・内服なし→C (control)
<結果>
・M6は門レベルの差あり。Bifidobacteriumを含むActinobacteriaが減少。一方Bacteroidetes and Proteobacteria増加。一方ペニシリン群は時期を問わず大きな変化なし。
・マクロライド内服は長期にわたり、菌の多様性が減少が継続。
・胆汁酸塩脱水酵素(少ないと消化管代謝が減少し、肥満や糖尿病に関連するとされる)はマクロライド群で減少していた。
・腸内細菌のマクロライド抵抗性は内服後6ヶ月以降は減少
・生後2年間にマクロライド使用群は喘息と有意に関連(オッズ比 6.11)
・マクロライド使用頻度(/年)とBMIは正の相関
マクロライド系抗生剤使用群は、腸内細菌の多様性が長期に渡って失われ、更に喘息や肥満に関連する可能性が示されました。一方、ペニシリン群では腸内細菌叢にほとんど影響がありませんでした。
マクロライド系がよく効く菌は多々あります。抗生剤を多用しないにこしたことはありませんが、医師の処方を守らず病気を長引かせると、病状の悪化や周囲への感染拡大の可能性もあります。
抗生剤は、感染症から命を守ってくれる薬でもあります。これらのメカニズムが解明されることで、抗生剤を使いつつも腸内細菌への影響を抑えられるような治療法が出てくるといいですね。