おなかを壊しやすいと将来大腸がんになりやすい?

長年にわたっって「おなかをこわしやすい」「おなかが弱い」という患者さんから、将来大腸がんになりやすいの?といったご質問をいただくことがあります。「おなかをこわしやすい」疾患の代表格、過敏性腸症候群と将来的な大腸がんにかかるリスクについて、イギリスの”UKバイオバンク”の大規模追跡調査研究が報告されました。

Irritable Bowel Syndrome and Long-Term Risk of Cancer: A Prospective Cohort Study Among 0.5 Million Adults in UK Biobank

Wu, Shanshan et al. The American Journal of Gastroenterology 2022;117:785-793 

  • 37〜73歳の500,000人以上の参加者のうち、悪性腫瘍、炎症性腸疾患、セリアック病(グルテン不耐による下痢症)などを除外した449,595を対象
  • 22,338人 (5.0%) がIBSの診断に該当
  • すべてのタイプの悪性腫瘍の発生について、IBS群は非IBSと比較して、両群に差はなし。
  • 約12年追跡後、IBSに該当した人は、非IBSに比べて、大腸がんと直腸がんにかかるリスクは減少していた。(調整ハザード比→大腸がん0.75 (95% CI: 0.62–0.90)、直腸がん0.68 (95% CI: 0.49–0.93))

    ハザード比とはこの場合、追跡期間中の発症するハザードについて、非IBS群と比較して、大腸がんは25%、直腸がんは32%軽減ししていたとのことです。他の悪性腫瘍の発生については、両群で大きな差はみられませんでした(神経関連腫瘍については統計上は差があるが、罹患者数や背景より今後議論が必要とのコメントが論文中に記載あり)。

    大腸・直腸がん発症について「IBSだからがんになりにくい」というよりも、「IBS様の症状があるから、消化器内科などに受診の機会が多い→大腸内視鏡検査やCTなどの腹部画像検査を受ける機会が多い→良性の小さなポリープなど、早期に発見、治療が行われることが多い」といった理由ではないかと考察されています。また、IBSの方は症状の悪化について、ご自身で日常生活内で工夫をしていることも多く、例えば、飲酒を控えていたり、脂分の多い食事を控え食物繊維を積極的にとるなどの日々の積み重ねが、大腸がんの発症リスク軽減につながっているのではないかとも述べられています。

    IBSなど機能性消化管疾患を疑う場合、年齢や治療中の疾患などによりますが、基本的にまずポリープや腫瘍、炎症などを除外する目的で内視鏡検査や画像検査、採血を行うことが大切と考えます。一方でIBS症状がない方についても、定期的に大腸がん検診(便潜血検査など)を受けて行くことが大腸がんを予防することにつながると考えます。

    今後、大腸ポリープの出現率自体がIBSだと変わってくるのか、もしくはその更に背景にどのような病態があるのかなど、更なる研究が進んでいくといいですよね。

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