腸内細菌は生後数日経たないうちに住み着き、死ぬまでずっと体内に居着きます。「腸を洗ったら、菌の量や種類は変わるのか」、そんな素朴な疑問をよく耳にします。今回は大腸内視鏡検査で液体下剤を内服した人の、腸内細菌を調べた研究をご紹介します。
腸内細菌は約300種類、600兆個位いると言われていますが、悪玉・善玉菌が絶えず増えたり減ったりしています。食事や抗生物質など様々な要因により、腸内細菌は菌の種類や数を絶えず変えていることがわかってきています。
大腸内視鏡検査をたくさん行っていると、ごく稀に検査後にお腹の調子が良くなったという人がいます。多くはお腹の症状に対する治療が行われていたり、大きな病気でなくてホッとしたり、周囲の環境が変わったりなど、様々な影響が関連していると考えられます。
大腸内視鏡検査の前に、2L前後の水様下剤を飲むことが一般的です。実際に、この薬により大腸内の便を洗い流すことで、腸内細菌叢はどう変わるのか、興味があるところです。これまでは、大きな変化なしという論文が散見されていましたが、今回、下剤の飲み方比較し、さらに長期の変化も観察した論文が報告されました。
腸管洗浄は腸内細菌にどう影響するのか?
Effects of bowel cleansing on the intestinal microbiota.
Gut. 2015;64:1562-1568.
<対象>
・23名の健常者
・水様下剤の飲み方について、ランダムに2群に割り当てた
1)1Lを前の晩に飲み、残り1Lを当日朝飲む
2) 当日朝に2Lを全て飲む
<方法>
・下剤はポリエチレングリコール(PEG, 製品名Moviprep)、トータル2Lを使用
・便採取は4回:検査前、下剤服用後、14日後、28日後
<結果>
・検査前と比べて、下剤服用後の総腸内細菌量(濃度調整後)は約1/35低下した。
・23名中5名は大きく菌構成が変わった。
・2回に分けて内服した群の方が、菌叢の減少は大きかった。
・一方、2L一回で内服した群の方が、14日後の腸内細菌叢の変化が大きく、ProteobacteriaやClostridium cluster XIVaが増えていた。
・14日時点で、検査前に比べてグラム陽性菌が増加し、陰性菌が減少していた。28日時には検査前の状態に近づいていた。
・菌量と逆相関して、便中saline proteaseが増加していた。
水様下剤内服によって、腸内細菌が変化することがわかりました。多くは28日後には検査前の状態に戻っていましたが、20%程度の被験者さんは、下剤服用により腸内細菌叢バランスが一時期大きく変わりました。
下痢をしやすい菌が一時的に増えており、腸内細菌バランスが何らかの原因で変化した際に、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患を引き起こすメカニズムが隠れている可能性があると筆者らは述べています。
お花畑に例えるなら「花」が腸内細菌で、粘膜環境が「土壌」というイメージです。腸内細菌だけいじっても、「土壌」の状態によって生息し易さは変わります。今後このあたりの研究が進むと、もっと面白くなるかもしれません。
※尚、今回の下剤服用は医師の監視のもと厳重に行われています。決して自己判断によって下剤を大量に服用することは避けてください。電解質バランスや、腸の動きを大きく変えて副作用出現の危険性があります。またこの内容は、医師主導でない「腸内洗浄」などといった行為を推奨するものではありません。