感染性腸炎の原因菌としても頻度の高いカンピロバクター。生焼けの鶏肉などから体内に入り、激しい下痢や腹痛、発熱などを生じます。自然に回復することが一般的ですが、症状が強い場合は抗生剤などを使って治療することもあります。近年、感染性腸炎後数ヶ月たって、消化管からはもう原因菌が検出されないのにも関わらず、腹痛や下痢・便秘といった過敏性腸症候群様症状が続く人がいることがわかってきました。本邦でも、2020年に日本消化器病学会から出版された「機能性消化管診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)」において”感染性腸炎後過敏性腸症候群(Post-infectious IBS)”という名前で掲載されました。
さて、カンピロバクターによる感染性腸炎になった患者さんを追跡し、その後どの程度感染性腸炎後の過敏性腸症候群(PI-IBS)に進展したか調べた研究が報告されました。PI-IBSに進展した人達と、ならかなかった人達の腸内細菌や食生活などを比較し興味深い結果が書かれています。因みに、報告者らはPI-IBSについて長らく研究し、世界的にも重要な報告を行っている研究者チームです。
Postinfective bowel dysfunction following Campylobacter enteritisis characterised by reduced microbiota diversity and impaired microbiota recovery
Jalanka J, et al. Gut 2022;Sep 28
この研究では、元々はお腹の悩みがなかった約5人に1人が、カンピロバクター感染性腸炎に罹ったことでIBSを発症したことがわかりました。興味深いことに、PI-IBSの中で、特に食物繊維をあまり食べない方々においてGammaproteobacteriaという腸内細菌が増加していました。
この研究は単施設によるもので、かつカンピロバクター腸炎に罹った人限定のため、参加人数はどうしても少なくなってしまいます。しかし、何らかの感染性腸炎など、腸内環境が大きく変わる場面で、その原因菌によるダメージを最小限に抑えるのに「食物繊維」が関連していそうだ、という今回の報告。今後のPI-IBS進展予防に向けた大きな布石になると考えます。まだまだ、PI-IBSと食物繊維の関連を決定づけるには更なる研究が必要と考えますが、動向に注目したいところです。