腸内細菌の研究が進んできて、腸内細菌に影響を与える行動や生活がクローズアップされてきています。生まれた時から地域や食生活の影響を受ける中で、運動の差が腸内細菌環境に影響するという報告が出てきました。
運動は、筋力だけでなく、タンパク質や脂質代謝、そして免疫にも作用することが多々わかっています。長らくハードな鍛錬をしているトップアスリートの腸内細菌と同じ体格(BMI)の一般人の違いはあるのでしょうか。アイルランドのラグビー選手の腸内細菌について調べた論文をご紹介しましょう。
運動とパフォーマンス維持のための食事は腸内細菌に影響する
Exercise and associated dietary extremes impact on gut microbial diversity.
Gut 2014;63:1913-1920.
<対象>
・プロラグビー選手 40名 (平均年令 29 ± 4歳、平均BMI 29.1 ± 2.9)
・コントロール群 (1) BMI ≤ 25 23名 (2) BMI > 28 23名
・アイルランド人(1名 インド人)
<方法>
・便採取→-20℃保存, 16S rRNAシークエンス
・血液検査→CK, サイトカイン,
・質問紙:Food frequency questionnaire (FFQ)を用いて栄養士が聞き取り
・X線装置を用いてウエスト/ヒップ比を測定
<結果>
・アスリートの腸内細菌叢はコントロール群よりも菌種は多かった
(アスリート 22網, コントロール群 低BMI群 11網, 高BMI群 9網)
・アスリート群で有意にBacteroidetesは少なかった
・アスリートの菌種の多様性はタンパク質摂取量とクレアチニンキナーゼ(CK)と相関していた
・血液中のCKとサイトカイン、代謝系マーカーはアスリート群とコントロール群で有意差あり
運動は腸内細菌の多様性に関係する
腸内細菌は多様性であるほど良いと考えられています。炎症性腸疾患やクロストリジウム(CD)感染症、自閉症、肥満などでは菌の多様性が少ないことが報告されており、年を取った時に多様性があるとより健康な場合が多いとわかっています。今回ラグビー選手群は菌の多様性があり、更に炎症関連物質が低いことがわかりました。選手は通常、激しいフィジカルトレーニングに加えて、通常の1.5〜2倍のカロリー摂取、タンパク質摂取などを行っています。
腸内細菌は産まれた時の環境や、育った場所、病気や抗生剤の使用歴なども影響しており、運動だけで腸内細菌が変化するとは言い切れません。またラグビーなどの運動選手は、一般人と比べて心肺機能が相当異なっています。これらが炎症性サイトカイン等に与える影響もあり、巡り巡って、腸内細菌に差が出てきた可能性も考えられます。腸内細菌がアスリートのパフォーマンスに直接影響するかどうかは、今後更なる条件検討が必要と考えられ、全身状態を含めた研究が必要と考えられます。