ストレス関連ホルモンが、腸の運動や知覚を過敏にすることがわかってきています。幼い時のストレスが、これらの腸の反応に影響を与えるのか調べた研究をご紹介します。
「お腹が弱い」、いわゆる過敏性腸症候群(IBS)は、遺伝などの可能性に加えて、環境の影響が言われています。欧米では虐待や家庭、学校でのストレスとの関連が言われるなど、子供の生活環境とストレスの関連が、「お腹」に影響している可能性が指摘されています。
日本や欧米の若年成人の約15%と、大変多くの人がIBSに当てはまるとされます。多くが日常生活を普通に送っている方です。よって、必ずしも「お腹が弱い」=「ストレス環境にいる、ストレスに弱い体質」とは限りません。
しかし子供の腹痛、繰り返す下痢や便秘について、周囲の大人が気付いてあげることで、その背景にある子供の心のサインに気づける可能性もあります。そこで、実際に幼少時にストレスがかかると、腸はどのように感覚や環境が変化するのかラットを用いて研究した論文をご紹介します。
幼少期のストレスは行動、免疫、腸内細菌を変える:IBSや精神疾患へのヒント
Biol Psychiatry. 2009;65:263-267
<方法>
・SDラットを生後2日から12日まで、1日3時間母親と引き離した(母子分離ストレス)
・ストレス検査1:7-8週時にオープンフィールドに放ち、糞便を回収
・ストレス検査2:大腸にバルーンを挿入し、大腸伸展刺激を加えた
・ ストレス刺激5日後、血液採取
<結果>(→部分は解説です)
・オープンフィールド環境下で、母子分離ストレス群は有意に糞便数が増加
→糞便増加=不安増加
・大腸刺激で、母子分離群は疼痛閾値が有意に低下し、痛み行動が増えた
→内臓知覚の増加
・コルチゾール、全末梢血刺激時TNFαとIFNγが母子分離群で上昇していた
→ストレス時にコルチゾールや、後者の炎症関連物質が上昇する
・腸内細菌叢をDGGE法で比較すると両群で有意に異なっていた
ラットは幼少期に母から離されると、非常にストレスを感じます。今回、幼少期のストレスが、ラットでいう青年期において、大腸知覚やストレスホルモン反応に影響が出るのか調べました。結果は不安に関連するコルチゾールというストレスホルモンや、大腸の知覚過敏がみられ、さらに、腸内細菌や炎症関連物質も変化していました。
ヒトにおいても、幼少期にストレスが繰り返されて体内のネットワークに一旦変化が生じると、その状態で定常化してしまい、成人後も続いていくことが言われています。(アロスタティック変化)
精神・身体的にも未熟な幼少期、心のSOSを読み取ってあげれる仕組みについて、医学研究が進むことでメカニズムが解明されてくれば、子供の笑顔をもっと増やせるかもしれません。