良薬、腸に悪し?

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃潰瘍や逆流性食道炎に効果がある薬です。米国では市販薬として、日本でも多くの医療機関で日常的に処方されています。しかし、PPIが腸内細菌の働きを弱めてしまう可能性が示されました。

 PPIは胃酸の分泌を抑えることで、胃のpHを上昇させ、胃や食道の炎症を改善します。ピロリ菌除菌にも使用されています。消化器内科の分野ではなくてはならない薬で、米国では年間売上トップ5に入っています。

いくつかの副作用の可能性があるものの、長期投与されている人も多くいます。PPI長期内服により、骨折や膠原線維性大腸炎(collagenous colitis)に加え、腸管感染症や、クロストリジウム・ディフィシル感染症になりやすいことも報告されています。

因みに、クロストリジウム・ディフィシル感染症は、抗生剤内服等により、主に免疫などが低下した人の大腸で毒素を産生し、下痢や発熱などを引き起こします。近年米国を始め世界的に増加しており、入院や医原性、また老人介護施設などで感染が広まっています。米国で医療関連感染症として最も多く、推定で年間約45万人に感染し、高齢者中心に数万人が死亡しています。

クロストリジウム・ディフィシル感染症患者に、健康な人の便を移植することで改善することが報告され、注目を集めています。そこで、PPI内服により、腸内細菌は変化するのか、病原性菌が増えやすくなるのか、オランダの大規模研究が報告されました。

プロトンポンプ阻害薬は腸内細菌に影響をおよぼす

Proton pump inhibitors affect the gut microbiome

Gut. 2015 Dec 9 Epub

<対象者>

1)一般人 1174名:PPI内服者99名

2)炎症性腸疾患(IBD)300名:PPI内服者60名

3)過敏性腸症候群(IBS)189名:PPI内服者52名

<方法>

・全群において便を採取

・1,2群のうち116名について口腔内粘膜も採取

・排便回数や便状態、腹痛、抗生剤服用などアンケートを施行

・便は16S rRNAを抽出しMiSeqで解析

<結果>

 ・PPI群は非内服者より平均年齢が高かった

・PPI群は腸内細菌の多様性が減少していた。Enterococcus, Streptococcus, Staphylococcus、そしてEscherichia coliを多く認めた。

・PPI群は口腔内細菌に近い腸内細菌叢を示した

・これらの菌叢と、IBD,IBS群において腹痛スコアと関連なし

 

PPI内服者は、過去にいくつかの論文で報告されているクロストリジウム・ディフィシル感染者と似た腸内細菌叢でした。通常ならば、この菌の増殖を防いでくれる善玉菌群などが減少していました。

著者らは、口腔内細菌叢との類似性を指摘していますが、口腔内サンプルを採取できたのは、全体の約1%程度とごく僅かです。口腔内細菌叢が、腸内細菌の病原性菌を増やす関連性、もしくは、胃酸を抑制することで腸内細菌叢が変化するメカニズムについては、はっきりとわかっていません。

angel and devil - happyfinger

PPIは有用な薬ではありますが、使用適応と期間について、リスクがあることを知って用いる必要があると述べられています。PPIを切ると症状が再燃する場合も臨床ではよく経験します。次の一手を臨床の場で議論していく必要もあると考えられます。

 

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