「お腹がいたい」この感覚は、腸の信号と脳が関連しあって出ています。腸の刺激がどのような働きをもつ脳部位を刺激しているのか、脳画像を用いた研究が進められています。
腸は絶えず蠕動(ぜんどう)運動を行っています。しかし日常生活において、腸の「感覚」を意識することはほとんどありません。
腸は独自の神経叢(しんけいそう)を持っており、腸からの信号は脊髄を通って脳に通じます。腸の運動や腸壁の力のかかり具合など、これらの情報を脳が処理します。それにより「腹痛」「お腹が不快な感じ」「お腹が張った感じ」といった感覚が生まれます。
お腹が弱い方(下痢型、便秘型、混合型含む)はしばしばこれらの「感覚」を経験し、時に辛い思いをされるかと思います。この腸と脳の関係について、脳機能画像を用いた研究が盛んに行われています。今回は、機能性消化管疾患について脳機能画像を用いた、初期の代表的論文をご紹介いたします。
過敏性腸症候群(IBS)と健常者の直腸刺激による腹痛の局所脳活動比較
Gastroenterology. 2000;118:842-848.
<対象>
18名の過敏性腸症候群(IBS)、16名の健常者
<方法>
・バロスタット法(風船刺激法)を用いて直腸の壁を刺激
・刺激強度は、以下の3通り;15mmHg(痛みを感じない), 30mmHg(中等度腹痛), 55mmHg(腹痛を感じる強さ)
・functional MRI (機能的磁気共鳴画像)を用いて腹痛時、非腹痛時の局所脳活動(前帯状回、前頭前野、島、視床)を比較。
<結果>
・IBS群内では前帯状回と視床が、中等度大腸刺激(30mmHg)と強大腸刺激(55mmHg)との比較で有意に活動が亢進。
・健常者群内では、刺激強度を増しても有意に4領域の脳活動は増強せず。
・IBS群と健常者群比較では、IBS群の前帯状回の活動が強大腸刺激時に有意に増強した。
IBS患者は強大腸刺激により、脳活動が亢進
健常者に比べてより活動が亢進していた「前帯状回」は、皮膚や内臓の痛み、自律神経調節にも関連している部位です。また恐怖などの情動にも関連すると言われています。
IBS患者はバロスタット刺激の際に、健常者より少ない刺激量で腹痛を感じやすいと言われています。今回の研究では、強大腸刺激の際にIBS患者は健常者よりも有意に高い腹痛スコアを示していました。
この論文が発表されてから15年以上経ち、腸の痛覚過敏性と刺激強度を調節した脳画像研究が多数報告されています。方法や結果の差異はあれど、そこまで大差はないとされています。
お腹の機能の解明と特効薬作成の難しさ
現在、IBSで活動しやすい局所脳の細胞、物質、遺伝子レベルで多くの研究が進められています。腹部を超えた様々なネットワークが関連しているため、解明が非常に難しい疾患の一つです。
そのため現時点では、腸をターゲットとした薬剤だけでは、一時的に症状を改善できても、完全に治すことは難しいと言われています。一方、脳に働く薬剤は、副作用などの問題から気軽に使用できないものもあり、医師の判断が必要です。
しかし、多くの研究者達の尽力で、薬の他に、症状を楽にしたり、症状が悪化する原因が報告されつつあります。自分のお腹のパターンを知り、日常生活で取り入れる事ができる方法を、このサイトでもご紹介していければと思います。
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