昔からドカ食いや不規則な食事習慣、そして脂っぽい食事やカフェイン、スパイスが効いた食事は、おなかに良くないと言われています。一方科学的な食事指導、日常生活でよりどちらを気にすると良いのでしょうか。
胃壁の伸びと消化管感覚の関連や、脂質が十二指腸に流れると腸管がより動き出したなど、「お腹の感覚・運動」に関する研究は多数報告があります。また唐辛子に含まれるカプサイシンに反応する受容体が、過敏性腸症候群(IBS)では多かったり、アルコール、カフェインで悪化する事がいわれています(※過去参考記事:飲み会の後、よくお腹下すんだよね)。
近年欧米を中心に、「科学的にIBSに良い食材」について研究が進んできています。このサイトでも登場している「低FODMAP」食という考え方です(※過去参考記事:低FODMAP食とおなかの関係)。今回は、「低FODMAP」を意識した生活と、前述した「いわゆる、おなかに優しい生活習慣」、どちらがIBSの症状改善に役立ったか調べた論文をご紹介しましょう。
低FODMAP食は一般的な食生活指導と同じくらいIBSの症状を減らす
Gastroenterology. 2015;149:1399-1407
<対象>
- 75名のIBS患者(平均42.5歳、女性61名)
- 低FODMAP食群(38名)、一般的食生活指導群(37名)にランダムに振り分け
<方法>
2群にそれぞれ以下の指導をした。
- 低FODMAP食群:栄養士が発酵性のオリゴ糖、単糖、二糖類、ポリオールなど短鎖糖質(頭文字をとってFODMAPという)を控えた食材の指導を行う。例えば、リンゴ、豆類、パン(小麦)、牛乳、キシリトールなどの人工甘味料多く含んだ食事を控えて、オレンジやベリー類、乳糖なし牛乳などを勧めるなど。
- 食生活指導群:いつ、どれ位の量食べるか(1日3食を規則正しく。多すぎず、少なすぎず)。よく噛み、ゆっくり食べる。脂質やスパイシーな食事、コーヒーやアルコール、ジュースや甘い飲み物、ガム、食物繊維などの摂取を控える。
- 1ヶ月間継続し、検査開始時、14日目、終了時(29日目)にIBS症状スケール(IBS-SSS)測定
<結果>
- 両群とも、経過とともにIBS症状スケール、腹痛、腹部膨満感が低下
- 低FODMAP群では腸管運動 (排便回数)が低下
- 両群共に、摂取カロリー量低下。低FODMAP群でより有意に低下。
- 低FODMAP群の中で、特に女性、中年以上で効果あり
- 食生活指導群では、便秘型IBSは反応しにくかった
意外なことに、両群ともにIBSの症状を改善しました。更に低FODMAP群の方が、排便回数の改善に加えて、糖質の管理に注意してもらったからか、摂取カロリー低下という副産物ももたらしました。両方指導していたら、更に改善したかもしれません。
日本では「おなかに良い食材」というと、「便秘解消」のイメージが強いのか、発酵食品やオリゴ糖、ヨーグルト、食物線維などが有名です。しかし、これらは「高FODMAP」となり、腹痛や下痢・便秘を繰り返すIBSの方には悪影響となる場合もあります。実際に、これらの食品を沢山食べることで、「おなかにガスが溜まりやすくなった」「便秘、または下痢が悪化した」という患者さんに出会うことがあります。
一方、これら食材には乳酸菌など「有用菌」を多く含むものもあります。何か特定の種類に集中して、沢山摂取するのではなく、お腹の調子を見ながら、適当量摂取していくのが好ましいのではないでしょうか。
日本でも私達医師が、おなかの症状・タイプ別に、生活習慣に加えて食事指導などをできる環境を構築する必要があるのかもしれません。また日本食にあった低FODMAP食のレシピが少なく、食材の流通など欧米と異なる部分もあります。日本でも、エビデンスの構築とともに、手軽にFODMAPの知識を使える生活になると良いなと思います。