おなかが弱い友人達と食事に行くと「辛い系料理ですぐ下す」「下す上に、肛門までヒリヒリして辛い」なんて話がでます。管理人も焼き肉のカルビスープは鉄板ですが、一方でその後キュルキュルいうお腹に後悔することも。。
本当に「おなかが弱い」人が、唐辛子(カプサイシン)に反応しやすいのかどうか。明日から「唐辛子好きのお腹弱いさん」がどう刺激物に挑んでいけばよいのか…。そんな研究をご紹介していきましょう。
過敏性腸症候群(IBS)は、やはりカプサイシンに反応しやすかった
便意を感じやすい人の直腸感覚神経に多数カプサイシン受容体(TRPV1)が発現していた、という衝撃の論文が、2003年Lancet(超有名誌)に掲載されました。この研究の対象患者はIBSではなかったのですが、IBSでもお腹の痛みや大腸の知覚閾値が低下していることから、カプサイシン受容体(TRPV1)の研究が進んでいきました。
そのような背景のもと、今回ご紹介するのはIBSの直腸S状結腸粘膜を調べた研究。やはり、カプサイシン受容体(TRPV1)はIBSの腸管神経に多く存在していました。しかも健常者より3.5倍も多かったという結果です。
IBS患者における、カプサイシン受容体(TRPV1)発現感覚神経の増加と腹痛との関係
Increased capsaicin receptor TRPV1-expressing sensory fibres in irritable bowel syndrome and their correlation with abdominal pain. (全文みれます: open access)
GUT 2008;57:923-929
方法:IBS患者23名と健常者22名の大腸粘膜生検(直腸-S状結腸)と腹痛アンケートを施行。生検組織はTRPV1, substance P, 神経マーカー(PGP), 肥満細胞(c-kit), リンパ球(CD3, 4)をそれぞれ免疫染色。
結果:TRPV1陽性神経はIBSで有意に増加していた。他の炎症関連物質も全て有意に増えていた。TRPV1陽性線維と肥満細胞数は腹痛の強さと相関を示した。
結論:IBSの大腸に微小炎症を示唆する結果である。またTRPV1がIBSの腹痛に関連している可能性が考えられる。
どうしてお腹が弱いと、カプサイシン受容体が沢山出てくるの?
前述した論文は、カプサイシン受容体(TRPV1)の周りにどのような登場人物がいるかを調べ、背景にどんなストーリーがあるか推測しています。実際に、神経伝達物質や(substance P)、同じく炎症やアレルギーなどで登場するリンパ球(CD3)、肥満細胞を多数認めました。これらは炎症やアレルギーなど、チリチリとした反応が起こる際によく出てきます。IBSは通常、大腸内視鏡や血液検査で明らかな炎症所見を認めませんが、この結果は腸管に微小炎症が起きている可能性を示唆する所見です。
しかし、なぜこれらが増えたか、その大元の仕組みについては完全には解明されていません。腸内細菌説や脳との関係、遺伝説など様々研究が進んでいます。例えば、肥満細胞や炎症関連物質はストレス関連ホルモン(副腎皮質放出ホルモン刺激ホルモン:CRH)刺激によって増えるとも言われています。このストレス関連ホルモンは腸管運動を上げる作用があり、IBSに重要な役割を果たしていると言われています。
避けすぎず、でも黄色信号を知る
以上まとめると、「おなかが弱い」人が、過度のストレス状態であったり、体調が悪い時に “HOT” な食事を食べると、おなかを下す可能性があるかもしれません。しかし、必ずしも避ける必要はないと思います。世の中にこの受容体を沈めてくれる食べ物などがあるとよいのですが…。治療法が限られているIBSにおいて、副作用が少なく簡便な治療法が見つかるよう、日々研究者たちは頑張っております。
さて、何千年という歴史のある唐辛子。昔の人は、「体に良い」部分があるから栽培を続けてきのでしょう。調べてみると文化や気候との関連があるようです。「唐辛子」の体への働きについて今後お話できればと思います。